つむぎレポート

No.0092013.11.14
上場株式等の軽減税率の廃止

野口 健一

クロス取引

上場株式等の譲渡及び配当所得に係る10%※1の軽減税率の特例が平成25年12月31日をもって廃止され、平成26年1月1日以後は、本則税率の20%※1が適用されます。個人投資家においては、含み益が生じている上場株式等についていわゆるクロス取引を行うケースも考えられると思います。クロス取引とは、株式を売却するとともに直ちに同一銘柄の株式の再取得をする同時の契約がある取引をいいますが、法人税では取引前後で経済実態に何ら変更がないことから、その売買取引はなかったものとしてその売却損益を認識しません。(法人税基本通達2-1-23の4)※2

 一方、所得税ではクロス取引による売買でも通常の売買として認められておりますので、個人投資家が保有する含み益が生じている上場株式等について税率が上がる直前に一度利益確定させることにより、それまでの増加益については10%の軽減税率の適用を受けることが可能となります。

例えば、リーマンショック直後に購入した取得価額1,000万円の株式の価額がアベノミクスの影響により3,000万円となっているようなケースにおいては、平成26年1月1日以後に譲渡した場合には、譲渡益2,000万円に対して20%の税率が課税されるため400万円の税金がかかりますが、クロス取引を年内に行えば、10%の税率が適用されるため、200万円の税金で済みます。また、一度売却し買い戻すことにより取得価額も3,000万円に付け替えられますので、今後は3,000万円を超える部分について20%課税されることになります。

NISAの活用

 上場株式等の軽減税率の廃止と入れ替わりで平成26年1月1日から少額投資非課税制度(NISA)が始まります。この制度は、平成26年1月1日から10年間の口座開設期間において年間100万円までの上場株式等の投資金額について5年間非課税(金融機関に対する取引手数料はかかります)となり、毎年非課税管理勘定を設けた場合最大で500万円までの投資金額について非課税投資を行うことが可能となります。投資利益について20%課税されるところが非課税で運用できるため個人投資家の裾野が広がることが期待されます。

基本的にメリットの大きい制度なのですが、留意点としては以下のような点が挙げられます。例えば、その年において50万円投資した場合には未使用分の50万円の非課税枠を翌年に繰り越すことができない点や、一度売却してしまった場合にはその非課税枠の再利用が出来ない点、また、非課税口座内で損失が生じた場合、他の課税口座内の利益と相殺することできない点などが挙げられます。NISAはデイトレードのような短期売買で活用するよりも、じっくり投資する中長期保有目的で活用する方が向いているかもしれません。

※1復興特別所得税率(所得税率×2.1%)は、本稿では説明簡便化のため加味しておりません。

※2本通達の注意書きでは、「同時の契約がない場合であっても、これらの契約があらかじめ予定されていたものであり、かつ、売却金額と購入金額が同一となるような売買価額が設定されているとき又はこれらの価額が売却の決済日と購入の決済日との間に係る金利調整のみを行った価額となるよう設定されているときは、同時の契約があるものとして取り扱う」と規定されていますので、このような疑似取引が行われる場合も留意する必要があります。